「AIエージェント」――2025年、いま最も注目を集めているキーワードです。

OpenAI、Microsoft、Google、Salesforce、Anthropicなど、世界のビッグテック各社がそれぞれ独自のAIエージェントを発表する準備を進めています。こうした動きにより、新たな技術がもたらす“これからの働き方”への期待も一段と高まっています。

AIエージェント全体への期待と可能性は、いま「バーティカルAIエージェント(Vertical AI Agents)」へと集約されつつあります。世界的スタートアップアクセラレーターのY Combinatorは、「Vertical AIエージェントは、既存のSaaSよりも10倍規模に成長する市場になり得る」と展望しています。また、デロイトはレポートの中で、「2025年には生成AIを活用している企業の25%が、AIエージェントのパイロットプロジェクトまたはPoC(概念実証)を開始する」と予測しています。

では、AIエージェントへの理解が深まりつつある今、あらためて注目されるバーティカルAIエージェントとは何でしょうか。実際の産業現場では、AIエージェントはどのように活用されるのでしょうか。そして、それらを円滑に機能させるシステムは、どのような構造で成り立っているのでしょうか。

この3つの問いを紐解いていきます。

 

AIエージェント:自律的に判断し、行動するAI

AIエージェントとは、ワークフローが流動的な業務を自律的に判断し、処理する知能システムです。企業の特定業務を代行する組織を「エージェンシー」と呼ぶように、特定の業務を代行するシステムをAIエージェントと捉えることができます。AIエージェントは、データをもとに学習し、自ら判断し、自律的にタスクを実行するという特性を備えています。最大の特徴は、人の都度の指示や介入を必要とせず、状況に応じて自律的に行動を実行できる点にあります。

 

AIエージェントの動作原理と基盤技術

AIエージェントの動作原理と基盤技術

 

「今年残っている有給を使って海外ハイキングに行きたい。最適な日程と場所を教えてほしい」というタスクをAIエージェントに与えた場合、どのような順序で動作するのでしょうか。

まず最初に、AIエージェントはユーザーの要求を理解します。「日程の提案」と「旅行先の推薦」という目的を特定し、その達成に必要な情報を整理します。次に、情報収集を行います。今年残っている有給日数は何日か、その期間に適した海外の候補地はどこか、現地の気候やベストシーズン、航空便の状況などを調査します。

その後、収集した情報をもとに条件に合致する日程と候補地を絞り込みます。そして、最適と判断される旅行先とスケジュールを提示し、ユーザーからのフィードバックを受け取ります。

もし提案が十分に満足できるものでなければ、このプロセスを繰り返し、条件や嗜好を再反映しながら改善を重ねます。最終的には、ユーザーに最適化された旅行プランを提示し、航空券や宿泊施設の予約まで実行することも可能です。

バーティカルAIエージェント:産業を理解するカスタマイズ型AIエージェント

AIエージェントは、単にコンテキストを理解するだけでなく、推論能力を基盤として必要なワークフローを自ら構築します。こうした一連の動作が可能になった背景には、進化を続ける生成AI技術と高度化したソフトウェアエンジニアリングの融合があります。

生成AIやLLM技術を活用して新たな生産性向上を目指す企業にとって、AIエージェントは大きな可能性を切り拓く存在です。先に挙げたビッグテック企業がオフィス業務を支援する汎用AIエージェントの高度化を進めている一方で、企業の本質的な価値を生み出す“中核業務”に適したバーティカルAIエージェントは、さらに別次元の可能性を提示します。

バーティカルAIエージェントとは、製造、流通、医療、法務、金融など、特定のドメインに深く根ざした専門知識を理解し、実行できるAIです。特定の産業・領域に特化した設計により、ドメイン知識を学習・理解できる構造を備えています。そのため、対象となる業界や企業のワークフローを理解し、固有のデータを分析しながら、予測困難な状況や業務の変動性にも対応可能です。自律的に判断し、より精緻で実践的な解決策を提示します。

企業にとって、自社の業務を深く理解するバーティカルAIエージェントは、自社が直面する課題をより的確かつ効果的に解決するための強力なパートナーとなるでしょう。

バーティカルAIエージェント活用シナリオ

では、産業現場においてバーティカルAIエージェントはどのように行動するのでしょうか。

産業特化型AIエージェントは、LLM技術を基盤に、より具体的かつ実務に直結したタスクを実行します。単なる情報提示にとどまらず、現場の状況を理解し、判断し、次のアクションまで導き出します。

ここでは、MakinaRocksが実際に向き合ってきた産業現場をもとに構成したシナリオをご紹介します。

 

バーティカルAIエージェント活用シナリオ

バーティカルAIエージェント活用シナリオ

 

産業特化型AIエージェントを活用し、製造現場の設備管理を自動化するケースを想定してみましょう。

まず、異常検知AIモデルが設備の異常兆候を事前に検出します。すると、検索エージェントが関連事例や過去データを即座に参照し、想定される原因を提示します。原因が特定されれば、次に必要なのは具体的な対処策です。

分析エージェントは、設備から収集されたセンサーデータ、ロボットの対応履歴、マニュアル情報などへアクセスし、統合的に分析した結果を提示します。これまで、こうした多様なデータを横断的に統合・解釈することは従来のAIでは容易ではありませんでした。しかし、LLMを組み込むことで、異なるデータソースを一つの統合インターフェース上で扱い、文脈を踏まえた分析が可能になります。

分析結果をもとに、制御エージェントが問題解決に必要なコードを自動生成し、設備を制御します。LLMがバーティカルAIエージェントとして進化することで、特定タスクを理解し、実行に必要なワークフローを自律的に構築したり、制御コードを生成して実行することが可能になります。たとえば、作業者が対応していた一定レベル以上のアラーム発生時に設備を停止したり、稼働速度を調整したりする作業も、バーティカルAIエージェントによって自動化できます。

このシナリオは一例にすぎませんが、最終的に目指すのは、産業現場においてバーティカルAIエージェントがデータに基づいて状況を認識し、自律的に判断・対応する“自律化”の実現です。

 

Compound AI System:AIエージェントを円滑に機能させるシステム

Compound AI Systemとは、複数のAIモデル、エージェント、リトリーバー、データベース、外部ツールなど、さまざまな構成要素を統合し、AIタスクを効率的かつ効果的に処理するためのシステムです。[/caption]

産業現場では、ERP、MES、SCMなどの各種業務システムから生成されるローデータに加え、数多くのセンサーや設備から出力されるデータなど、膨大な情報が日々生み出されています。

Compound AI Systemは、こうした複雑な環境の中で複数のエージェントが協調し、問題の原因を分析し、最適な解決策を導くためのモデルを呼び出し、必要なデータを取得・判断を実行できる基盤となります。 その結果、分散したデータを横断的に活用しながら、与えられた課題を自律的に解決することが可能になります。

Compound AI Systemの下では、多数のVector DB、API、AIモデル、AIエージェント、そしてAgentic Systemが相互に連携しながら課題解決を行います。

特にAIエージェントは、それぞれの役割を有機的に分担し、最適な回答の提示や、ユーザーが求めるアクションの実行へとつなげます。このような連携構造をAgentic Systemと呼びます。

単一のエージェントがすべての問題を処理するのではなく、課題を分解し、複数のエージェントが各要素を担当することで、より大きく複雑な問題を解決していきます。

さらに、各エージェントの実行順序を制御し、タスクの進行を指示しながらシステム全体を監視するエージェント・オーケストレーションも、近年注目されている重要なキーワードです。

AIエージェントおよびCompound AI Systemを効果的に機能させるためには、すべてのAIモデルや生成AI技術が、単一のオペレーティングシステム(OS)、あるいはMakinaRocksのRunwayのようなAIプラットフォーム上で統合的に動作する必要があります。

AIプラットフォームを通じて多様なデータを一元的に活用し、AIエージェントの構成や連携を容易に設計できる環境が整ってこそ、AIの潜在能力は最大限に引き出されます。

今後、こうしたプラットフォーム基盤型のAIエージェントは、さまざまなドメインへと拡張され、単なる自動化を超えた“自律化”へ、そして超生産性(Super-Productivity)の時代を切り拓いていくと期待されています。